氷の王子は花の微笑みに弱い 《 第四章 01

 城の舞踏会でサディアスと踊ったあと、アリアには常に護衛が付くこととなった。
 サディアスは単独行動をしていることが多いが、王族ならば本来、常に複数の護衛が付くものらしい。
 サディアスとパトリックはメディエッサとの交易に向けて日夜を問わず執務と調整に励んだ。その甲斐あって、医学大国メディエッサから一定量の人材を確保することに成功する。
 メディエッサから医者を呼び寄せて一ヶ月が経つと、ロイド公爵の病は回復の兆しを見せていた。
 ベッドから起き上がることもままならなかった公爵だが、天気のよい日は庭や湖を散策できるまでになった。
 アリアは相変わらずリトルフ侯爵邸にいた。
 城の舞踏会から三ヶ月が経ったある日、とくに改まった恰好をしてサディアスが、パトリックを伴って訪ねてきた。

「ロイド公爵に会いに行く。きみも来て欲しい」

 サディアスとパトリックはそれぞれ小脇に書状を抱えていた。
 ふたりの表情から、緊張感が漂ってくる。
 そうして、アリアは久方ぶりに公爵邸へ帰ることとなった。

「訪ねるのは別邸だ」
「そう、なのですか。それでは、私は――」

 別邸へは立ち入ってはいけない。アリアは本邸で待っていようと思った。

「いや、きみも来るんだ。ロイド公爵が、そうして欲しいと言っている」
「父が……?」

 戸惑いながら馬車に揺られ、別邸の前で降りる。
 はじめて立ち入る別邸は、本邸と同じ造りだった。ただ、本邸よりも新しいというだけだ。
 応接室に入ると、そこには父親のロイド、そしてシンディ、それから――レヴィン伯爵令息ルークがいた。
 シンディと顔を合わせるのはレヴィン伯爵領へ向かわされて以来だ。

「ようこそサディアス殿下。ご足労いただきありがとうございます」

 ロイドがにこやかに挨拶をする。父のそんな姿はずいぶんと久しく、アリアは思わず瞳を潤ませた。

(お元気になられて、本当によかった)

 手紙ではたびたび体の調子を伺っていた。「すこぶるよい」という返事が来るたび嬉しかったのだが、こうして元気な姿を目にすると喜びも一入≪ひとしお≫だ。
 全員がソファに座ると、複数のメイドが給仕をはじめた。その間、だれひとりとして発言しなかった。場の空気は極めて重い。

「父上にご報告申し上げます」

 口を開いたのは兄のパトリックだ。手にしていた書状を広げたかと思うと、男性の名を次から次に読み上げていった。そのなかにはルーク・レヴィンも含まれていた。

「以上、シンディ様が父上とご結婚なさったあとに関係を持った――いえ、いまも続いて関係を持ち続けている男性の名です。ルーク殿以外、全員に確認いたしました」


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