氷の王子は花の微笑みに弱い 《 終章 03

 上半身が自然と傾いて、ベッドに仰向けになる。サディアスはアリアの胸を揉み込みながら覆いかぶさり、首筋をきつく吸い立てて所有の印をつけた。
 チロチロと肌を舐めながらふくらみのほうへ下りていき、薄桃色の玉を口に含む。

「んぁっ!」

 アリアの全身が飛び跳ねても、サディアスは構わずつぼみを舐めしゃぶる。
 ちゅうっと音が立つほどに吸われると、触れられていないほうのいただきもツンと尖るので世話がない。
 サディアスはこの日を心待ちにしていたと言った。アリアもまた同じ気持ちだったのには違いないが、寝室をともにする今夜は緊張が先に立っていた。
 しかし、そういった強張りはものの見事に溶かされてしまった。優しく触れてくる手と舌は慈しみにあふれている。
 ひとりでに尖っていたほうの胸飾りを指でこねられる。
 激しくとも、痛みはない。彼はこちらの反応をいつも気遣ってくれる。サディアスの視線がそれを物語っていた。アリアの顔や両手、足の先に至るまでを常に観察している。そうしてときおり「平気か?」と言葉でも確認してくれる。
 アリアはうなずくことしかできないが、彼の心遣いが身に染みて愛情が際限なくあふれてくる。
 アリアは喘ぎながら手探りをして、サディアスのナイトガウンの紐を解こうとした。

「ん――?」

 いっぽうサディアスはアリアがなにをしようとしているのかわかっていなかった。

「サディアス様、も……脱いで」

 小さな声で言うと、サディアスは驚いたように目を大きく見開いたが、それは一瞬のことで、すぐに笑みをたたえて「そうだな」と答えた。
 ナイトガウンの腰紐を手早く解き、そのなかに着ていた上衣を脱ぐ。

(そういえば、サディアス様の裸を見るのって……はじめて)

 あまりジロジロと見てはいけないだろうかと思ったが、こちらはいつだって穴が開きそうなほど見られているのでいいだろう。
 アリアは彼の上半身に目を向ける。思いのほか――と言っては失礼だが、胸板は厚くがっしりとしている。いまさら、彼が馬上で弓を射ることを日課にしているのを思い出した。
 たくましい裸体に見とれて惚けていると、サディアスは唇を引き結んだ。

「……きみはいつもこんな心地なのか」

 サディアスはにわかに頬を赤くして、

「きみが灯りを消したがった気持ちが、少しわかる」

 そうして、隠すようにアリアの胸に顔をうずめた。

「ふ、うぅ」

 幼な子がイヤイヤをするように――甘えるように首を左右に振られると、柔らかな金糸が素肌をくすぐる。

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