青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第二章 02

 メイドが紅茶を運んできて、和やかに談笑がはじまる。

「兄ですが、商談が長引いているようで……この場には顔を出せないかもしれません」

 テッドがルイスの不在を詫びると、ロナウドは「それは残念だが、商談ならば仕方のないことだ」と言葉を返した。

「ところで、ルイスはなぜ縁談を片っ端から断るのだろう」

 ロナウドはカタリーナのほうを見ながら言った。
 ロナウドにしてみればルイスは上位の貴族だが、ふたりは年齢が同じということもあり寄宿学校時代からの親友だ。互いに名前で呼び合っている。

(ええと……私が答えるべき、なのよね?)

 テッドはルイスが縁談を断る理由を知らない。

「おにいさまは、いまは仕事に集中したいとおっしゃっていました」

 するとロナウドは翡翠色の瞳をすうっと細めた。

「ちがう、きみへの縁談だ。ごまんと舞い込んでいるのを――もしかして、知らないのか?」

 テッド、メアリー、そしてカタリーナは驚いて目を丸くする。テッドとメアリーも、ロナウドが言っているのは「ルイスへの縁談」だと誤解していたようだった。

「わ、私への縁談……ですか?」

 そんなもの、あるのだろうか。
 しかし、ロナウドが嘘や冗談を言っているとは思えなかった。昔から、たしかなことしか口にしない人だ。
 カタリーナは返答に困り、テッドに目配せをして助けを求める。
 テッドは「ああ、ええと」と言いよどんだあとで、

「カタリーナには領地の視察に同伴するなど兄を手伝ってもらっています。それで、兄はカタリーナの助けが必要で……彼女をまだ手放したくないのかと、思います」

 カタリーナはきょとんとして目を瞬かせる。

 (そ、そうだったの?)

 領地視察のとき自分はいつもオマケのようなもので、ルイスにしてみればせいぜい話し相手くらいにしかなっていないような気がする。

「領地視察の同伴、ね……。それは、ルイスの妻となるべき方がなさればよいことでは?」

 サロン内がしいんと静まり返る。だれもなにも言葉を発しない。

「や、やあね、お兄様ったら! ブレヴェッド侯爵様には侯爵様のお考えがあってのことなのよ。お兄様が口を出すことじゃないわ。ごめんなさいね、カタリーナ。それにテッド様も。どうかお気になさらないで」

 取り繕うように言ったのはメアリーだ。笑顔が引きつっている。

「そうだな、出過ぎたことを言った。すまなかった」

 悪びれたようすもなく涼しい顔で紅茶を飲むロナウドを、三人はつい見つめる。皆の注目を集めていても、ロナウドは表情を変えずにティーカップをソーサーへ戻し、それからなにを言うでもなくカタリーナに視線を据えた。

(な、なにかしら……?)

 なにかおかしなところでもあるのだろうか。いや、それならば先にメイドやテッドが気づいて教えてくれるはずだ。

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