青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第二章 06

 アーバー子爵邸のダンス・ホールは多くのゲストでにぎわっていた。
 祝賀の夜会ということで、ダンス・ホールはいつにも増して豪奢に飾りつけてある。
 ダンス・ホールに入るなりルイスは多くの令嬢に取り囲まれた。皆がルイスを見て、うっとりとしたようすで「お待ちしておりました」と口々に言って頬を赤く染めている。
 いつものことだが、そうして女性たちに囲まれる義兄を見るたび心のなかに黒い霧がかかったように気分が暗くなる。

「――よくきてくれた」

 人ごみをうまくよけてロナウドがやってくる。

「本日はまことにおめでとうございます」

 社交辞令的な挨拶をするテッドには「ありがとう」とだけ答えて、ロナウドはカタリーナに手を差し伸ばす。

「俺と踊ってほしい」

 カタリーナは「よろこんで」と言いながら差し出された手を取る。

(ロナウドさまと踊るの……久しぶりだわ)

 到着して早々、ダンスに誘われたのには少し驚いたが、別段おかしなことではない。ロナウドは主催者のようなものだから、多くの令嬢と踊らねばならないだろう。
 ロナウドに腰を抱かれ、ワルツに合わせてステップを踏む。
 彼の足を踏むようなこともなく、無事に一曲を踊り終える。
 しかし、次の曲になってもロナウドは手を放してくれなかった。

「ロナウドさま?」

 呼びかけると、どうしてか彼はホールの床に跪いてしまう。

「俺と――結婚してほしい」

 ダンスを申し込まれたのと同じようなトーンで言われたものだから、カタリーナはつい「よろこんで」と言ってしまいそうになった。

(え――えぇっ!? け、けけ、結婚――って、おっしゃったわよね!?)

 結婚となれば、そう安々と「よころんで」などと答えるわけにはいかない。
 気がつけばダンス・ホール内はざわめき立ち、ロナウドとカタリーナのところだけぽっかりと穴が開いたようになっていた。

(や、やだ……どうしよう!)

 カタリーナがまわりを気にして視線をさまよわせると、ロナウドはゆっくりと立ち上がった。しかしやはり、手は放してくれない。性急に答えを求めているようだった。そしてそれは、ダンス・ホールに集まっている人々も同じだ。カタリーナの返事を待っている。
 注目の的になっているせいで頭のなかが真っ白になってきた。うなずいてしまえばこの緊張感から解放されるだろうかとすら思ってしまう。

「わ、私――」

 突然、ロナウドとつないでいた手が離れた。

「カタリーナは注目を浴びるのに慣れていない。失礼するよ」

 ルイスはカタリーナの左手首をそっとつかみ、優美なほほえみをたずさえたまま身をひるがえす。
 カタリーナはルイスに手を引かれて人ごみの合間を縫って歩き、柱の陰になっている壁際まで移動した。

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