青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第二章 07


「ちょっとちょっと、大変なことになったね?」

 あわてたようすでテッドが声を掛けてきた。

「え、ええ……」

 うろたえるカタリーナを見て、ルイスは眉根を寄せる。

「カタリーナ――」
「ルイス様~?」

 なにごとか言いかけていたルイスだが、甲高い声が彼の名を呼んだ。ルイスを探しているのか、幾度となく「ルイス様」と呼びかける声が聞こえてくる。

「おにいさまは……ホールの中央に戻られたほうがよろしいのでは?」

 カタリーナが言うと、ルイスは渋面を浮かべて「そうだね」と答えてその場をあとにした。

「大丈夫、僕がついていてあげるよ。僕だってきみの兄だ」

 テッドはおだやかにほほえみ、カタリーナのとなりに立つ。

「僕は――血のつながりがなくても、きみのことを本当の妹だと思っているよ」

 テッドが唐突にそんなことを言い出したので、カタリーナは驚いて彼のほうを見やった。

「それは……ありがとう。私にとっても、テッドは大切な家族よ」

 するとテッドは嬉しそうに「うん」と答えて笑みを深める。
 お互いに笑いあったあと、カタリーナは視線をダンス・ホールへと戻した。
 ルイスがどこかの貴族令嬢と踊っている。チクリ、と胸が痛んでしまった理由は考えないようにする。
 テッドはカタリーナのようすをちらりとうかがったあとで口を開く。

「兄として……忠告しておく。きみはもう十八だ。その歳でまだルイス兄さんと一緒に寝ているなんて、本当は変なんだよ」

 いましがたチクリと痛んだ胸が今度はドクンッと大きく脈を打った。

「今朝はそのことを話していたんだ。兄さんには以前から口止めされていたから言えなかったけど……」

 だって兄さんは怒ると怖いから、とぼやきながらもテッドは話を続ける。

「でももう、さすがにいけないことだ。もしきみが結婚するとしたら、知っておかなくちゃいけない。男女の正しい距離感ってものを。ロナウド様に求婚されたのはいい機会だよ。ルイス兄さんのことを僕と同じように『兄』だと思っているのなら、一緒に寝るのはやめたほうがいい」

 カタリーナはあいまいに「んん」とうなってうつむく。
 そうして、知らない女性と優雅に踊る義兄から目を逸らしたのだった。


 アーバー子爵邸から帰ったあと、カタリーナはなにも持たずにルイスの寝室へと向かった。

(今日から自分の部屋で寝ます――なんて、いきなり言ったら……おにいさまはどう思うだろう?)

 喜んで「いいよ」と言ってくれるか、あるいは「どうして?」とわけを訊かれるか。彼の反応は思いつくだけでもさまざまで、よけいに不安になる。
 義兄の寝室の扉の前までくる。いつもと違って枕を小脇に抱えているわけでもないのに、扉をノックする右手がいやに重く感じた。

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