青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第二章 08

 なかから「どうぞ」と聞こえたので、カタリーナは「失礼します」と言いながら部屋の扉を開けた。
 ルイスは両手をうしろについて、くつろいだようすでベッド端に座っていた。

「あれ? 枕を忘れたの?」
「あ、その……」

 今夜からはここで寝るつもりはないから、枕は持ってこなかったのだと言わなければならないのに、言い出せない。

「まあいい。おいで」

 手招きをされ、吸い寄せられるようにベッドへと歩く。
 カタリーナがふだんよりもためらいがちだったからか、ルイスは彼女の体を抱き込むようにしてベッドに寝転がった。

「お、おにいさま……?」
「ん――」

 ぎゅうっと抱きしめられている。首すじのあたりに彼の顔があるから、吐息が当たってくすぐったい。
 温もりが心地よい。
 でも、落ち着かない。
 彼の腕に力がこもるのがわかった。
 トクトクトク……と脈が早まっていく。
 ルイスはカタリーナの頬に両手を添えてから言う。

「おやすみのキスをしてもいい?」

 あらためて確認されると、なんだか気恥ずかしい。
 カタリーナは「今夜からは自分の部屋で寝る」ということをすっかり忘れてコクリとうなずく。
 ルイスは碧い瞳を細めて、カタリーナの頬に唇を寄せる。
 ちゅっとリップ音が響くと、カァッと頬が熱くなった。カタリーナの顔はあっという間に朱色に染まる。
 真っ赤になったカタリーナをルイスは声もなく見つめていた。
 ルイスの眉間のしわがしだいに深くなっていく。
 なぜそのような――つらそうな顔をしているのだろうと思っていたとき。

「ん――!?」

 目の前が真っ暗になった。
 いや、瞳を塞ぐくらい近くにルイスのまぶたがあるから、暗くなったように感じるのだ。
 彼の唇が、頬ではなく唇に触れている。
 頬にされるのとはまったく異なる感触だ。

「ふう……ぅ」

 カタリーナがうめくと、ルイスは目を閉じたままピクッと両肩を揺らした。
 うっすらとまぶたを持ち上げたあと、カタリーナの頬をつかみなおし、カタリーナの唇を舌で割った。

「ん、んっ!?」

 口のなかに入り込んできたそれの正体がまったくわからなかった。よく考えればひとつしかないのだが、混乱した頭では思考がまともに働かない。
 頬を撫でまわしていた彼の両手がゆっくりと下降する。
 ネグリジェの、ふくらんでいる部分を押し上げられる。

「――っ!!」

 カタリーナは反射的にルイスの両胸を押して飛びのいた。後ろ歩きをしてベッドから離れる。
 ルイスはなにを言うでもなく呆然としている。

「きっ、今日は――今日からは自分の部屋で寝ます。おやすみなさい!」

 そうしてカタリーナはきびすを返してルイスの寝室を出た。自室まで小走りする。

(び、びっくりした……!)

 嫌悪感だとか、不快感はまったくない。ただ――驚いている。

(あれって……なんだったの?)

 一瞬のことだったが、脚の付け根がうずいて、どうしようもないくらいの高揚感に襲われた。
 カタリーナは自室のベッドに潜り込んだあとも、悶々と考え込んだのだった。

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