青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第三章 01

 これは、知恵熱というものだろうか。
 ふだんからあまり物事を深く考えてこなかったことのツケがまわってきたのかもしれない。
 アーバー子爵邸の夜会に出席した日、眠らずにルイスのことを考えていたカタリーナは翌日、高熱を出してしまった。
 カラダの丈夫さだけが取り柄だと思って十八年生きてきたのに、徹夜をしたくらいでこの体たらくだ。情けない。
 めったに寝込まないからか、メイドたちは必要以上にかいがいしく世話をしてくれた。
 額に載せられた濡れタオルはもう何度、取り替えてもらったかわからない。

「お医者さまのお話ではすぐに下がりますとのことでしたら、大丈夫です! どんな些細なことでも、なんなりとおっしゃってくださいね!」

 老年のメイド頭が励ましてくれる。カタリーナはベッドの上で仰向けになったまま力なく「ありがとう」と言ってほほえんだ。
 コン、コン……と、なかのようすをうかがうような控えめなノック音が響く。
 カタリーナが「どうぞ」と言うと、ゆっくりと扉が開いた。
 片手に花束を持ったルイスが現れる。その表情は浮かない。

「あ……」

 昨夜の出来事が頭のなかにパッとよみがえる。彼の熱い舌の感覚も、まざまざと思い出してしまって顔が熱くなるものの、頬は知恵熱のせいでもともと赤いので、恥ずかしさで赤面しているのだとはだれにも気取られはしないだろう。

「少しのあいだ僕がカタリーナの世話をする。きみたちはいったん下がっていいよ」

 ベッドの脇にある円卓の上にあらかじめ置いてあった花瓶に持ってきた花――白いマーガレットをみずからの手で足しながらルイスは言った。
 彼が自分で花を飾りつけたのは、「自分を含めてメイドの世話はいらない」とアピールするためだろう。

「ですが――……いえ、かしこまりました」

 老年のメイド頭はルイスが飾った花を見やったあと、しぶしぶといったようすでほかのメイドを引き連れて部屋を出て行った。
 この邸でルイスに逆らえる者はだれひとりとしていない。ルイスはそうして使用人たちに指示するとき、カタリーナに語りかけるときと同じようにいつもほほえみを絶やさず柔らかな物言いをするが、有無を言わせぬ気迫が彼にはあるのだ。

(おにいさまと、ふたりっきりになっちゃった……)

 昨日の今日ではなんとなく気まずい。
 カタリーナは「きれいなお花をありがとうございます」と言ったきり黙り込んだ。

(どっ、どうしよう……。すごく、緊張する……!)

 よけいに汗が出てきたような気がする。カタリーナは苦し紛れに、首すじの汗雫を手の甲で拭う。

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