青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第三章 04


「ど、どうして……そのような、こと、を……?」

 熱があるせいか、あいかわらず胸をつかまれたままだからなのかわからないが、脈拍はいつもどおりにまではならなかった。心臓は幾分か静かになったものの、それでもまだトクトクと大げさに鳴って脳天に響く。

「僕はきみのことをもうずいぶん前から妹だとは思えなくなっていた」

 抑揚のない声だ。感情が読み取れない。もしかしたら彼は、必死に自分を落ち着かせようとしているのかもしれない。
 ルイスが深呼吸をする。

「一人の女性として、愛しく思っている」

 カタリーナは目を見開いてピクッと全身を弾ませた。

「昨夜も――顔を赤くするきみを見ていたらたまらなくなって、気がついたら……きみの唇を、塞いでしまっていた」

 彼の言葉が頭のなかを通り抜けていく。
 深く考えることができないのは、きっと高熱のせい。

「すまない、本当に……。昨夜のこと、いままでのことを謝りにきたのに、僕は――……」

 ルイスはカタリーナの胸をつかんだまましばらく動かなかった。
 柱時計がカチ、カチッと秒を刻む音がやけに耳を打つ。
 早く時が過ぎてほしいような、もっとこのままでいたいような――なんともいえない妙な気分になった。
 ルイスは大きく息をついて、ゆっくりとカタリーナのふくらみを解放する。
 手首のあたりまで下がっていたネグリジェとシュミーズをもとの位置まで引き上げ、手際よくボタンを留めていく。

「ゆっくりおやすみ、カタリーナ」

 ほほえみのなかに悲壮感をにじませてルイスは部屋から出て行った。
 間もなくしてメイドたちが戻ってくる。そうしてまた世話を焼いてくれた。

『一人の女性として愛しく思っている』

 目を閉じていたカタリーナだが、パッと見開いてしまう。

「どうなさいました? お眠りになれませんか?」
「な、なんでもないわ……」

 そう言ってカタリーナは掛け布団を目もとまで持ってきて顔を隠した。
 彼にその言葉を言われたときにはピンとこなかったのに、いまになってそのことばかり考えてしまうのだ。

(すごく嬉しい、けど……)

 ――そうしたらもう、「おにいさま」ではなくなってしまうの?
 私たちはいったいどういう関係になるの?
 また、ああいうことをするの?
 カタリーナはギュッと強く目をつむる。
 いままでは、ただ抱き合って。
 頬にキスをされて。
 そうして眠るだけだった。
 先ほど耳もとで紡がれたルイスの言葉をひとつひとつ思い起こす。

(待って……じゃあ……おにいさまは私の胸を見たことがある、のよね……!?)

 そう思い至ると、目の前がぐらぐらと揺れた。そんな気がした。

(だ、だめ……もう、なにも考えられない)

 熱が下がったらきちんと考えよう、と決めて、カタリーナは寝返りを打った。

前 へ    目 次    次 へ