青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第四章 01

 カタリーナの知恵熱は一日のうちに下がり、次の日には前日の高熱が嘘のようにすっかり元気を取り戻していた。

「みんな、昨日は本当にありがとう。今日は私がみんなになにかしてあげたいわ」

 メイドたちに向かってカタリーナが意気込んでそう言うと、

「まぁまぁ、お嬢様はなんてお優しいのでしょう! でも、お気持ちだけでけっこうですから!」

 老年のメイド頭がそう言うので、カタリーナは困り顔になって「そう?」とつぶやいた。

(肩を揉むくらい、したかったのに)

 カタリーナが唇を尖らせていると、来客の報せを受ける。

「アーバー子爵ご子息、ロナウド様がお見えになりました」
「ロナウド様が? おひとりで?」

 家令が「さようでございます」と答える。

「ええと……おにいさまでなく、私にご用があるのかしら」
「はい。お嬢様が熱を出されたことをご存知のようで、お体を気にしていらっしゃいました。こちらにお通ししてもよろしいですか?」
「そ、そうね……。お願い」

 メイドたちがあわただしく茶や菓子の準備をはじめる。なにせ急な来客だ。
 ロナウドはすぐに部屋にやってきた。手には大きな花束を持っている。
 挨拶もそこそこに、「起きていて平気なのか」と尋ねられた。

「はい。熱はもう下がりましたので」
「そうか……? だが無理はしないほうがいい。ベッドで寝ていてもいいんだ」
「いえ、本当にもう元気ですから」

 それでもロナウドはまだ心配そうだった。紫色の花束をメイドに渡し、ソファに腰掛ける。カタリーナの真正面だ。

「今日はお見舞いにきてくださったのですか? お忙しいところご足労いただき、ありがとうございました」
「ああ……」

 ロナウドは視線をさまよわせたあとで、メイドが淹れたばかりの紅茶に手を伸ばす。

「きみはまだ病み上がりだ。……返事は、もっと落ち着いてからでいい」

 そうして紅茶をいっきに飲み干した。カタリーナはパチパチと瞬きをする。

(返事……?)

 考えを巡らせたあと、「あっ」と大声を出しそうになったものの、グッとこらえたので妙な口の形になった。ロナウドが不思議そうに首を傾げる。

「すみません、なんでもありません」

 そうしてカタリーナはあいまいにほほえむ。
 求婚されたのに、そのことをすっかり忘れていたなんて――失礼にもほどがある。

(きちんと考えなければならないことがたくさんある)

 すべてのことをよく考えて、できるだけ早く結論を出さなければならないと思った。
 紅茶ばかり飲んでいて話しかけてこないロナウドを見つめる。

(結婚――といっても)

 ロナウドとともに歩む未来がまったくもって想像できない。
 そもそも自分はロナウドのことをほとんど知らない。
 親友の兄で、実業家ということしかわかっていないのだ。

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