青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第四章 02

 ロナウドは紅茶を何杯も飲んだあと、「仕事があるので」と言って早々に帰っていった。
 カタリーナの体調を気遣ってか「見送りはけっこう」とあらかじめ断られたので、カタリーナは私室のソファに座ったまま「結婚について」を悶々と考え込んだ。

(そういえば私……結婚に関する知識が少しもないわ)

 ガヴァネスはそういうことを教えてくれなかった。
 自分には縁談がこないから、知る必要もないと思ってガヴァネスには結婚について尋ねたことがなかった。
 結婚したらなにをするのか――いや、なにをするべきなのかまったくもってわからない。
 「ひとりで考え事をしたい」と言ってメイドたちには部屋を出て行ってもらったのだが、こんなことなら残って話を聞いてもらうべきだった。彼女たちの多くは結婚している。貴族のそれとは多少、異なるかもしれないが、結婚とはどういうことかをじゅうぶん知っているだろう。
 メイドを呼び戻そうかとソファから立ち上がると、タイミングよく部屋の扉がノックされた。
 だれかが戻ってきてくれたのかもしれないと思ったカタリーナはすぐに部屋の扉を開ける。

「えっ? あ……お、おにいさま」

 ドキンッと胸が鳴る。
 メイドだと思って扉を開けたのに違った、という理由だけではない胸の高鳴りだ。

「カタリーナ、具合はどう?」
「え、ええ……おかげさまで、もうすっかり元気になりました」

 カタリーナはぎこちなくほほえむ。
 自分では自然な笑顔を見せているつもりだけれど、義兄のけげんな顔を見ればうまく笑えていないことがよくわかった。

「ロナウドがきていたようだね。……少し話せる?」

 カタリーナは上ずった声で「はい」と返事をしてルイスを部屋に招き入れた。
 ルイスはカタリーナの部屋をぐるりと見まわし、紫色のライラックが飾られた花瓶のところで目をとめた。しばらく花瓶を注視したあと、カタリーナに視線を向ける。
 彼の手が頬に伸びてくる。
 ルイスはなにを言うでもなくカタリーナの頬を何度か撫でた。

(え、えっ……!?)

 撫でられたところが瞬時に熱を持って赤くなる。

「……元気になったと言うわりに、まだ顔が赤いね」

 そんな言葉をかけられれば、よけいに恥ずかしくなって頬が赤みを増す。
 カタリーナは無言でうつむいた。

「少し前から思っていたけど……もしかして……その――」

 赤らんだ頬で目を伏せるカタリーナに、ルイスはためらいがちに尋ねる。

「僕を、意識している……?」

 吸い込んだ息を吐き出すことができずカタリーナは息を詰めた。
 果たしてそうなのだろうか。「意識している」というのはどういうことなのだろう。
 カタリーナは悩んだものの結論が出せず小さな声で「わかりません」と答える。

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