青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第五章 02

 メアリーの姿にロナウドが重なって見えた。ふたりがよく似ているせいだ。
 ルイスに体をまさぐられたときに思った。
 ほかのだれかにされるは嫌だ、と。
 裏を返せば、彼でなければだめだということだ。
 カタリーナはすうっと大きく息を吸い込む。

「私……おにいさまのことが好き。家族としてだけじゃなくて、たぶん――……ううん。間違いなく、男性としても」

 メアリーの口もとがほころぶ。それも彼女の『予想どおり』だったのか、少しも驚いていないようだった。

「ねえ、いまからメアリーのお邸へ行ってもいい? ロナウドさまはご在宅かしら」
「ええ。今日は一日、邸にいるとおっしゃっていたわ。私がカタリーナのところへ行くと言ったら、一緒についてくるって言うから必死に断ったのよ。お兄様がいたんじゃろくに話もできないもの」

 メアリーはさっそうと立ち上がり、

「カタリーナ、お兄様をこっぴどく振ってあげてちょうだい。そのほうがお兄様のためになるから」

 そう言ってバチッと片目をつむったのだった。


 メアリーとともにアーバー子爵邸に到着したカタリーナは応接室に通された。
 ロナウドには彼の私室に、と指示されたようだったが、メアリーのはからいでそうはならなかった。
 カタリーナはどきどきしながら、応接室でひとりロナウドを待つ。子爵邸のメイドの給仕はあらかじめ断った。

(うぅ、緊張する……)

 想いを口にするのは――それがどんなものでも――とても勇気のいることだといまさらわかった。
 だから、その想いに感謝と敬意を込めて、真摯に向き合わなければならない。
 ロナウドはすぐにやってきた。走ってきたのか、息が弾んでいる。

「きみから大事な話がある、とメアリーから聞いた」

 額の汗を手の甲で拭いながらロナウドはカタリーナの真向かいに腰を下ろした。

「は、はい――」

 なにから話をするのか、つい先ほどまで順序立てて考えていたはずだった。
 しかし、うまく言葉が出てこない。

「ロナウドさまのお気持ちはとても嬉しいです。でも、私は……おにいさま――いえ、ルイスさまのことが好きなのです」

 結局は単刀直入な物言いになってしまう。
 ロナウドの目がわずかに見開く。しかし、すぐに細くなった。悲しみをたたえた笑みになる。

「やはりそうなったか……。予想どおりだ」

 メアリーとまったく同じことを彼が言うので、カタリーナはキュッと唇を引き結んだ。どんな理由であれ、ここで笑ってしまうのは失礼だ。

「そうじゃないかと思ってはいた。だから、きみに求婚した。はっきりさせたかった。きみのためにも、ルイスのためにも」

 ロナウドがうなだれる。顔の見えないまま、彼のくぐもった声が響く。

「わざわざ断りにきてくれてありがとう。ルイスならきみを一生涯、幸福で満たしてくれるだろう」

 カタリーナはどんな言葉を返せばよいのかわからなかった。

(ありがとう、と言うのは違うような気がするし……)

 悩んだ末に「寛大なお心遣いに感謝します」とだけ返すと、ロナウドは顔を上げてあいまいに笑った。

「いますぐに……心の底からきみたちを祝福できるほど俺は人間ができていない。だが、きみたちの挙式までには気持ちの整理をつける。ルイスに、そう伝えてくれ」


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