青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第五章 03

 アーバー子爵邸から戻ったカタリーナはしばらく、ロナウドの悲しみに満ちたほほえみが忘れられなかった。

(好きな人に、想いを返してもらえないのって……とてもつらい)

 このところ夜はずっとひとりで寝ている。
 ゆえになかなか寝付けないのだが、今夜はとくにそうだった。

(このあいだはきっと、おにいさまを傷つけた)

 このベッドで彼に体をまさぐられたとき、思いがけず涙を浮かべてしまった。

(私が、おにいさまに体に触れられたのがイヤで泣いたと勘違いしていらっしゃるに違いない)

 それは、拒絶されたということ。
 もし自分が逆の立場だったならば、悲しみに打ちひしがれることだろう。
 カタリーナは急に怖くなった。
 せっかく彼が「一人の女性として愛しく思っている」と告白してくれたのに、こんな態度ばかり取っていては愛想を尽かされてしまうかもしれない。

(明日……うん、明日。きちんとおにいさまに話そう、私の気持ち)

 しかしルイスは翌日から泊まりがけで王城へ出掛けてしまったので、カタリーナは悶々とした日々を過ごすことになる。

「――メアリーから聞いたよ。ロナウド様の求婚を断ったんだって?」

 カタリーナは目を伏せたままこくっと小さくうなずいてテッドの問いに答えた。
 昼下がりの陽光が射し込むサロンで、カタリーナとテッドはテーブルを挟んで向かい合っていた。
 給仕のメイドが運んできた紅茶をふたりしてすする。

「それで、カタリーナはこれからどうするつもり? 一生、独身でいるわけじゃないよね」

 テッドはその質問の答えももう知っているような気がしたが、尋ねられたので正直に答えることにする。『兄』には知っておいてもらわなければならないことだ。

「おにいさま……ルイスさまのことが好きなの。だから、王城から戻られたら想いを伝える」

 やはり、テッドは驚かない。

「そっか――うん。きみがそうなら、僕は応援する」

 テッドの穏やかな笑みを見たカタリーナは胸を撫でおろしながら「ありがとう」と言った。


 ルイスが王城から戻ってくる日。
 邸の主人を迎えるためメイドや家令がエントランスに集っていた。
 カタリーナとテッドもまたエントランスでルイスの帰りを待った。

(会えなかったのはほんの三日なのに……すごく長く感じた)

 ひとりで眠る夜が増えるたび、思い知らされる。
 彼がどれだけ大切で、彼にどれだけ恋い焦がれているのかを。
 扉の向こうでかすかに物音がした。だれかが階段を上ってくる靴音だ。複数聞こえるのは、ルイスのほかに邸の近侍も何人か王城へ赴いていたからだろう。

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