青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第五章 04

 エントランスの大扉が、ギイィッと重々しくきしみながら開く。
 にわかな緊張が明確なそれに変わり、心臓はドクドクドクと忙しなく脈を打つ。
 大扉が開かれてすぐの彼は険しい表情をしていた。
 なめらかな金髪と深海の瞳は美しすぎる。そのせいで近寄りがたい雰囲気をかもしだしている。
 彼を絵姿におこすとしたら、少しの美化もされないだろう。
 そのままでじゅうぶん、麗しい。
 朝陽が後光のように射して彼によりいっそうの彩《いろどり》を添える。
 カタリーナはルイスを見てしばし惚けた。
 会えなかったのはたったの三日だというのに、まるではじめて彼に出会ったかのようなときめきを覚えた。
 むしろ、いままでよく平気な顔で彼と寝室をともにしていたものだ――と、自分の無神経さにあきれてしまう。
 ルイスはすぐにカタリーナの姿を見つけてほほえんだ。その笑みにはいささか疲労感がうかがえる。

「おかえりなさいませ、ルイスさま」

 エントランスじゅうに響くような声でカタリーナは言った。小さな声では彼に聞こえないからと意識してそうしたのだが、それにしても少し声が大きすぎたような気がする。
 ルイスは驚いたようすで固まっている。
 彼がそんな顔をしているのはカタリーナの声の大きさのせいか、あるいは名前を呼ばれたからか、定かではない。

(いつかみたいに、おにいさまと呼ぶよう言われるかしら……?)

 まだこの邸にきたばかりのことを、おぼろげだが覚えている。
 あのときは、名前でなく「おにいさま」と呼ぶようにと言われた。

「……ただいま、カタリーナ」

 はにかんだような笑み。なんだか嬉しそうだ。
 カタリーナの胸がトクッとときめく。

(名前で呼んでもいいみたい)

 彼につられてほほえみながらカタリーナは言う。

「王城から戻られたばかりでお疲れのところ大変申し訳ございませんが、折り入ってお話しがあります」

 するとルイスの表情が一変して硬くなった。

「それは、ロナウドのこと?」
「その……ロナウドさまのお話も、ありますが」
「ん、わかった――。あとで僕の執務室においで」

 それからルイスはテッドとも二言、三言交わして、邸の奥へと入っていった。


 カタリーナはしばらく自室で時間をつぶしてから、ルイスの執務室へ向かうことにした。
 彼のことを想うとそわそわとして落ち着かず、部屋のなかをうろうろしては柱時計とにらめっこする。なにをするでもなく、その繰り返しだ。
 見かねたらしい老年のメイドが「髪の毛を梳きましょうか」と申し出てくれたので、カタリーナはドレッサーの前にある四角い椅子に腰を落ち着けた。

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