青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第五章 06

 隙間がないくらいに抱きしめられるのなんて、いまさらだ。
 いまさらなのに、彼の温もりに離れがたい愛しさを感じて身も心も歓喜する。
 カタリーナは赤い顔でこく、こくと二度うなずいた。

「――っ、好きだ、愛してる……! きみなしじゃ眠れない、生きていけない……っ」

 最後のほうは苦し気にそう言いながらルイスが頬ずりをしてくる。
 カタリーナは彼の言動に目を見張る。
 彼は、そんなことを言うひとだっただろうか。
 もしかしたら彼はいままで、兄らしく振る舞っていただけなのかもしれない。
 これがきっと、ありのままの彼なのだ。

「ずっと、僕のそばにいて。離れないで」

 互いの額がコツンとぶつかる。深い碧に目を奪われる。

「離れません。ずっと……ずっと、おそばにいます」

 言葉をしぼりだすと、唇を塞がれる。
 さながら誓いのキスだ。
 ちゅ、ちゅっとリップ音を立てながら唇を触れ合わせる。

(ふわふわ、してくる……)

 唇を重ね合わせているときに感じる、独特の浮遊感。
 全身の肌を柔らかい羽根の先でかすかに撫でまわされているような錯覚に陥る。

「っ、ふ……」

 ほんの少しだけ唇が離れたとき、ルイスの吐く息が妙になまめかしかったものだから、カタリーナはますます頬を赤くした。
 ルイスは赤い顔のカタリーナに熱視線を送ったあとで、ちらりと柱時計を見やる。

「今日はまだ執務があるんだった……」

 いかにも残念そうにルイスがつぶやく。

「私になにかお手伝いできること、ありますか?」
「んん……今日は、いいよ。きみの顔を見ていたら……その、さわりたくなってしまうから」

 そうして彼は苦笑いした。
 カタリーナが困ったような笑みを浮かべると、ルイスは彼女の髪をゆっくりと撫でながら言う。

「今夜からはまた……前みたいに、僕の部屋で寝てくれる?」
「はい」

 即答したものの、果たしてよかったのだろうか。

(いままでみたいに、家族としてただ一緒に眠るだけじゃ……ないのよね!?)

 しかし、「これからはベッドの上でなにかするのでしょう?」と尋ねる度胸は微塵もない。そんなことを確かめるのは、いくらなんでも恥ずかしすぎる。

「あ、そういえば――」

 ロナウドから言づけれたことをふと思い出したので、そのままルイスに伝えた。

「わかった……。ロナウドには近いうち、僕からも話をする」

 神妙な面持ちになって、ルイスはカタリーナの頬をすりすりとさする。
 手のひらで何度も頬を撫でられたあと、熱を帯びたそこに柔らかなくちづけを落とされた。

「またあとでね、カタリーナ」

 ほがらかに笑う彼をいつまでも眺めていたくなるのをグッとがまんして、カタリーナは執務室を出た。

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