氷の王子は花の微笑みに弱い 《 第一章 04

 アリアは彼の意図を読み取ることができず、目をつむるしかなかった。

(ずっと見つめていたら、四六時中サディアス様のことばかり考えるようになってしまいそう)

 それでなくても、気がつけば彼の姿が頭のなかに浮かんでいる。ここ最近はずっとそうなのだ。
 きっと、以前にも増して彼がこの部屋を訪ねるようになったせい。手を握ったり、ときには抱きしめられたりする機会が増えたせい――。
 まぶたを震わせてアリアが瞳を隠すと、サディアスは彼女の両肩を抱いてふたたびくちづけた。角度を変えながら桃色の唇を啄む。

「……アリアの唇……すごく、柔らかい」

 ぽつりと言われた。アリアが小さく「えっ」と口を開くと、そこへ舌を挿し込まれた。

「んん……!」

 舌はためらいがちに上顎をくすぐり、歯列をたどって下顎へ向かう。そうして熱い舌は口のなかをぐるぐると這いまわる。
 触れるだけだった、先ほどまでのくちづけとは明らかに違う。
 情欲を映した熱を、感じる。

「ふっ……ん、んん……」

 声にならない息が漏れるのが恥ずかしい。呼吸をどうすればよいのかわからない。
 彼の息遣いがなまめかしくて、脇腹は関係ないのにそこをくすぐられているような心地になる。
 サディアスの舌先が、いまだに戸惑っているアリアのそれに絡みつく。

(ど、どうすればよいのかしら)

 こんなことをしていいのだろうかという疑問はいつの間にか吹き飛んで、彼にどう応えればよいのかを考えはじめる。

(私の舌を引っ込めたら、いけないわよね……)

 では積極的に絡ませればよいのだろうか。
 いや、それはそれで恥ずかしい。
 緊張と羞恥でアリアは身を硬くする。口のなかでも、舌は微動だにできず固まっていた。すると、サディアスの舌と両手がゆっくりと動きだした。
 熱砂を思わせる舌と、雄々しい手のひらが穏やかにアリアをまさぐる。

「ん、っ……んぅ」

 じわりじわりと、なにかを溶かされているようだった。
 快か不快かと問われれば間違いなく前者だ。
 舌を絡め合わせるという――ガヴァネスから教わっていた、男女に関わる知識によるとおそらくは――卑猥な行為に、我を忘れて溺れる。
 彼の舌遣いが激しさを増していく。
 くちゅ、ぴちゃっと水音が立つようになると、下半身に熱の塊が生まれ、焚き火さながら燻った。
 なぜそのような感覚に陥ったのか、このときは少しもわからなかった。

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