氷の王子は花の微笑みに弱い 《 第一章 08


「きみに、堂々と話しかけることもできない己が不甲斐ない……」

 ――でもそれはきっと、私のため。妬み嫉みの的になるから。

「このままではいけないと、思っている。きみはもう……年頃だ」

 頬ずりをされ、触れ合う肌が熱を持つ。

「近いうちに必ず事を起こす。待っていてくれ」

 耳もとで、吐息まじりの低い声を紡がれた。脇腹のあたりがぞくぞくっと戦慄≪わなな≫き、またしても下半身に熱溜≪ねつだ≫まりが生まれる。

(これって、もしかしたら……はしたないことなのかも)

 いけないことなのかもしれないと思えば思うほど、下半身――脚の付け根に熱が集まっていく。それを、自分ではどうすることもできなかった。
 いつの間にかサディアスが顔を上げてこちらを見ていた。
 アリアは頬を赤らめて視線をさまよわせる。
 惑うアリアを導くようにサディアスは彼女の赤い両頬をつかんだ。
 彼の長いまつ毛が目の下に影をつくる。
 ちゅ、っと一回だけ唇が重なり合った。

「アリア……」

 今度は彼が、ためらいがちに視線をさまよわせる。

「……少しだけ、さわっても?」
「え――」

 アリアが目を見開くと、サディアスは彼女の頬に添えていた両手を上下させて肌をさすった。

「清廉なアリア≪空気≫を思いきり堪能したい」

 心臓を直接ノックされたのかと思うほど胸が高鳴った。そのままどきどきと激しく暴れはじめる。

「アリア? 返事を聞かせてくれ」
「さわる、とは……どこに」

 ぎこちない笑顔でアリアは訊く。

「……きみの、全身」

 サディアスはわずかにうつむき、唇をあまり動かさずにそう言った。碧い瞳が、一心にこちらを見つめてくる。
 アリアはぶんぶんと思いきり首を左右に振った。

(全身にさわる、だなんて――!)

 そうされているところを想像しただけで、全身から火が出てしまいそうだった。

「だめ? どうしても?」

 アリアはコクコクと素早くうなずいて拒絶を示す。
 サディアスは不満をあらわに唇を尖らせる。

「さわりたいにゃー」
「――!」

 下から顔をのぞき込まれた。ふたたび唇が触れてしまいそうな位置でサディアスはねばる。

「サ、サディアス様っ……! も、もう……っ!」

 あらぬ箇所がきゅんっと疼く。
 氷の王子様と呼ばれるこの男性≪ひと≫が、ときおりこんな言葉遣いをするのだと、ほかにだれが知っているだろう。

(だれにも、知られたくない)

 ――私だけが知っていたい。
 アリアはそっと、サディアスの上着の裾をつかんだ。

「……いい?」

 口を開きかけたものの、言葉で「イエス」を示すのは気恥ずかしくて、小さくうなずくだけになる。

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