氷の王子は花の微笑みに弱い 《 終章 06

 サディアスが深呼吸をしたのがわかった。雄棒を雌口に押し当てられる。
 彼の肉竿が沈んだ直後は、痛みはなかった。
 圧倒的な存在感を放ちながら、サディアスの肉茎が初々しい隘路を拓いていく。

「――っ!!」

 その瞬間は突如としてやってきた。
 強烈な痛みが脳天を突き抜け、手足の先までその痛みを伝える。痛覚が涙腺を刺激して、目から水粒があふれる。堪えようと思っても、涙を抑えることができなかった。
 サディアスの眉間に苦しげな皺≪しわ≫が寄る。

「アリア――」
「愛しています、サディアス様」

 彼が「すまない」と言おうとしているのがわかって、あえて言葉をかぶせた。
 痛みよりも愛情のほうが遥かに勝るのだと言いたかった。
 微笑んでみせると、サディアスは困ったような笑顔を返してアリアの目じりに溜まった涙を拭った。
 サディアスはじりじりとゆっくり己を進め、アリアの行き止まりに達する。
 それから彼はしばらく動かなかった。少しも身じろぎせず、アリアのようすを伺う。

「……痛みは、どうだ?」
「引いた、ようです」

 するとサディアスはおもむろにうなずき、腰を揺すりはじめた。
 それまで必死に耐えていたらしく、余裕のない表情を浮かべて陽根を前後させる。

「あっ、あぁ……ッ!」

 先ほどは「痛みは引いた」と言ったものの、じつのところ完全にそうだったわけではない。チリチリとした痛みはまだ残っていたが、彼に一突きされるたび快感のほうが大きくなっていった。
 律動がすっかり激しくなる頃には、ほとんどが快楽で埋め尽くされていた。

「は、あ――っ、アリア……ッ」

 生温かななにかが頬に落ちてきた。それが彼の汗だということに気がつくと、抽送が勢いを増した。

「あぁ、あ……ッ、サディアス様……!!」

 呼び返すのと同時に、蜜洞が蠕動≪ぜんどう≫した。
 サディアスはアリアの狭道に精を吐き出して果てる。
 「はあ、はあっ」と荒く息をしながらサディアスはアリアの隣に横たわった。
 アリアはしばらく動けなかったが、汗だくのサディアスを見てふと思い立つ。
 シーツの上を這いつくばって端へ移動し、引き出しからハンカチを取り出した。

「あの、どうぞ……お使いください」
「ああ、ありがとう」

 サディアスは横になったまま、嬉しそうに微笑んで額の汗を拭った。アリアはドキドキしながらそのようすを見守る。

「ん――?」

 サディアスの碧い瞳がハンカチの端――猫の刺繍を見つめている。

「これは……猫だな。きみが刺繍したのか?」

 アリアは上ずった声で「はい」と答える。

(よかった、猫だとわかってもらえた)

 サディアスの表情が一変して、晴れやかなものになる。

「上手になったじゃないか!」

 ハンカチを持ったままアリアの体を抱きしめ、頬ずりをした。

「このハンカチ、俺が持っていてもいいか?」
「はい。その……サディアス様のために刺繍しました」

 おずおずと言うと、サディアスはとろんとした笑顔になってアリアの頭を撫でた。

「俺の可愛い新妻。アリア……愛している」

 重ねられた唇は、いままででいちばん熱を持っていた。



「アリア、お願いだ」

 翌日のこと。アリアは困り果てていた。

「サディアス様……! ですから、それは」

 サディアスは両手に何枚もの衣服を持ってアリアに詰め寄ってくる。なんにでも刺繍を施して欲しいと所望され、困っている。
 アリアは両手を前に持ってきてぶんぶんと首を左右に振る。
 いくらなんでも上着に――そのような目立つ箇所に刺繍をするのは、憚≪はばか≫られるのである。


おわり

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