青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第五章 05

 ルイスはもう荷ほどきを終えただろうか。
 王城から戻ったあとはいつも、留守中に溜まった執務をこなすため遅くまで執務室から出てこない。

(お仕事の邪魔にならないようにしなくちゃ。想いを告げて、そのあとは……私になにかできることがないかお尋ねしよう)

 そんなことを考えているあいだに、老年のメイドが見事な編み込みのヘアスタイルを完成させていた。
 鏡に映る自分が目を見開いて顔をほころばせる。

「すごく素敵! ありがとう」

 そう言ってカタリーナは立ち上がり、部屋を出る。
 両手と両足が同時に前へ出てしまっていることに、少ししてから気がついた。
 自室を出たときは笑顔だったのに、ルイスの執務室へ着くころにはすっかり身心がこわばっていた。
 何度か深呼吸をして、執務室の扉をノックする。
 なかから「どうぞ」と聞こえたので、カタリーナは「失礼します」と言いながら執務室へ入った。
 部屋にはルイス以外、だれもいなかった。
 ふだんなら近侍や執事が何人かいるのだが、カタリーナがこの部屋を訪ねることがあらかじめわかっていたのでルイスは彼らを部屋に置かなかったのかもしれない。
 想いを告げにきたわけだから、ふたりきりなのはありがたいが――なにぶん緊張する。
 執務机の上の書類をざっくりと片付けてから、ルイスは立ち上がりソファに腰を下ろした。
 カタリーナは彼のななめ前のソファに座る。この位置がいちばん、話をしやすい。

「先日、アーバー子爵邸へ行きました。求婚を、お断りするために」

 ルイスは目を伏せたまましばらく動かなかった。
 この話をして、驚きを顔に出してくれたのはルイスだけだ。だれもかれも、さも「はじめからわかっていた」というような素振りだった。

「……そう」

 安堵したようにルイスはつぶやき、唇を引き結ぶ。
 互いの視線は重ならない。

「私、は――ルイスさまことが好きです」

 長年「おにいさま」と呼んできたものだから、名前で呼ぶのにはどうも慣れないが、もう「おにいさま」では嫌なのだ。
 きちんと彼の目を見て想いを告げるつもりだったのに、できなかった。
 気持ちを口にするだけで精いっぱいだ。
 カタリーナはうつむいたまま、想いの丈を吐露する。

「ルイスさまとじゃなきゃ、私っ――……」

 気がつけばルイスにぎゅうっと抱きしめられていた。ずっと下を向いていたから、彼がソファから立ち上がったのにも気がつかなかった。

「カタリーナ……! 僕の想いに応えてくれる、ってこと?」

 耳のすぐそばで彼の嬉しそうな声が響く。

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