氷の王子は花の微笑みに弱い 《 第三章 04

 アリアは意を決し、アイスブルーの瞳を見据える。

「私っ……、この先ずっと……サディアス様のおそばにいたいです。サディアス様のことが、大好きだから……!」

 心臓がドクドクと鳴り、胸の前で作ったこぶしのなかには汗をかいた。呼吸がままならない。緊張と不安で胸が押しつぶされそうだった。
 ――サディアス様は私の告白をどうお考えになっただろう?
 わがままを言っている、と迷惑がられるだろうか。
 碧い瞳に映る自分の姿が左右に揺れる。いや、自分の視界が揺らいでいるのかもしれない。
 曇りのない瞳を見つめているのがどうしてか辛かった。
 でも、目は逸らさない。逸らしてはいけない。先ほどの言葉に嘘も後悔もないのだから。

「……っ、参ったな。先に言われてしまうとは」

 サディアスが困ったように笑う。
 とたんに、アリアのなかで張りつめていたものが緩んだ。
 アリアの頬から首筋までを両手で覆い、サディアスは言う。

「争ってでも、きみを手に入れる。これからは守ってみせる。絶対にだ。なりふりなど、もう構わない」

 彼の喉もとがゴクリと動くのがわかった。
 その一瞬、緩んでいたものがふたたび張りつめた。

「俺の妻になって欲しい」

 瞳のもうすぐそこまできていた涙が外へと零れ落ちる。
 サディアスの一言が頭のなかにこだまする。

「はい」

 涙声で返事をする。それだけでは頼りなかったので、大きくうなずいた。
 顔を上げるとすぐに、唇を塞がれる。

「ンッ……!」

 押し重なった唇は少し乾いているような気がした。

「きみが愛しくて、たまらない……っ」

 いまにも泣き出しそうな顔になって、サディアスは大きく息をつき、アリアの首筋に顔をうずめ、むきだしの肌をちゅうっときつく吸い立てた。

「ふっ……」

 鋭い痛みが走るものの、嫌だとは思わない。彼に施されるすべてのことが快い。

「アリア……ッ、愛している」

 その言葉のあとすぐ体を抱え上げられた。急に高くなった視界に驚いてサディアスにしがみつく。彼は少しもよろけることなくアリアをベッドへ運び、そっと下ろした。
 端々に白いレースがあしらわれたネグリジェを着ているアリアの全身をじっくりと見まわす。

「ネグリジェだと……無防備だな」

 そう言いながら、サディアスはネグリジェの裾をつかみ、なかのシュミーズごと引き上げる。

「ほら……きみの透けるような白い肌が容易≪たやす≫く露呈する」
「あ、っ……サディアス、様」

 胸の下までが開け広げになった。アリアは反射的に胸もとを手で覆う。

「きみの全部が見たい――と、前にも言ったな」

 真剣な表情で告げられ、アリアはピクッと肩を揺らした。
 想いを伝えあった。
 結婚の約束をした。
 ならば、もう――肌を晒してもよいのでは?
 そんなふうに、だれかが話しかけてきた。
 それは紛れもなく自分なのだが、そう思ってしまった自身を恥じる。

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