氷の王子は花の微笑みに弱い 《 第三章 06

 官能的な悦びが、脚の付け根の秘された箇所を核にしてじわりじわりと広がっていき、手足の先を甘くしびれさせる。
 口を覆う手に力が入らなくなった。サディアスは容赦なく胸飾りを指でこね、もう片方の尖りを舌でなぶる。
 ふとアリアは太ももになにかが押し当てられていることに気がついた。

「あ……サディアス、様……? なにか、当たって――」

 口に手を添えたままモゴモゴと問いかけたものの、すぐにあることに思い至る。

(これって、もしかして)

 ガヴァネスに聞いたことがある。男性の脚の付け根にあるそれは猛るととても硬くなるのだと。
 サディアスは舌を引っ込めて唇を引き結ぶ。

「気がつかなかったことにしてくれ。いまは、まだ……きみのなかに己をうずめない。一応のけじめだ」

 頬を赤くして、しかしサディアスは毅然とそう言った。
 自分でも説明できない、いままでに経験したことのない感情が込み上げてきて、涙腺を熱くする。

「だが、きみの体は――この目と両手で存分に堪能させてもらう」

 口の端を上げてニッと笑うサディアスはいたずらを企んでいる少年のように見えて困惑する。

(四つも年上のサディアス様を少年みたい、だなんて)

 言葉には出せない、などと考えているあいだにドロワーズを下へずらされていた。なにも纏うものがなくなってはじめて、そのことに気がついた。

「ゃっ、サディアス様……!」
「んん、なんだ? 脱がせるときは少しも抗わなかったのに、いまさらじゃないか」
「そ、それは、その……」

 右手で胸を、左手で脚の付け根を押さえるアリアに、サディアスは自身の上着を脱ぎながら優しく命令する。

「手をどけるんだ。……よく見たい」

 彼のドレスシャツのボタンがひとつ、ふたつと外れて胸板が垣間見える。ドキンッと大きく胸が鳴ったのはなぜだろう。
 アリアが顔をそむけると、サディアスは大きく息を吐きながら彼女に覆いかぶさった。

「全身を撫でまわしても?」

 確認されても、「はい、どうぞ」とはとてもではないが言えない。
 サディアスは目を伏せるアリアのまぶたにくちづけを落とし、髪や頬に円を描くように手のひらを這わせた。
 そんなふうにされると、不思議と気が安らぐ。いや、裸だというのに落ち着いてしまうのはどうかと思うが、彼の手の温もりが緊張を溶かすのだ。
 首筋、肩、鎖骨――と、サディアスは抜け目なく手で触れて、アリアの肌を確かめていく。
 途中で彼の手が枝分かれした。左手はふくらみに留まり、右手は脇腹を伝って腰のあたりまで一気に下がる。
 大きな手のひらが腰骨とへそを撫でまわし、骨ばった長い指先が浅い茂みをかすめる。

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